9月6日、レゴ(R)エデュケーションが主催する「レゴ エデュケーション カンファレンス 2009」が日本科学未来館で行われました。ちなみにカンファレンスというは講演会や会合のことです。
レゴ エデュケーションさんによる製品発表会は過去に何度かありましたが、カンファレンスを直々に行うのは初めてのことではないでしょうか。レゴ本社から講演者が来日したりと、今まで以上に力の入った企画という印象を受けました。
開催の趣旨については、公式サイトに詳しく書かれていますので、そちらを参照してください。
http://www.legoeducation.jp/conference/index.html
今回のカンファレンスの主なテーマは「ロボティクス」。会場には100名以上も人が集まりました。やはり教育に関するイベントなので、参加者の大半は学校の先生だったと思います。
教育現場にロボットを導入する事例について、先生方による講演がありました。
▲基調講演その1。二足歩行ロボットのHRPシリーズで有名な産業技術総合研究所(産総研)の比留川 さんによる講演。
前半はロボット業界の現状を紹介。清掃ロボット(富士重工・住友商事)、アイソボット(タカラトミー)など、産総研と関係ないロボットもスクリーンに登場してました。
それから、HRP-2が冷蔵庫を開ける映像や、踊ったりする映像(なぜか会場から笑い声)や、HRP-4がファッションショーに出演した時の映像などがスクリーンに写されました。ちなみにHRP-2は2台ほど大学に4000万円で売った実績があるようです。
最後はロボットを教育に用いることについての考察。ロボットによって機械・電子・ソフト・物理・数学が学べるという効果があるが、逆に学ぶ要素が多すぎて「全てを教える時間はない」制約があるそうです。そこで、対策として、一部を教育すればロボットが使えるようにするか、もしくはキット等を使うことが有効ではないかとのこと。スクリーンには、「ビュートチェイサー」や「レゴ マインドストーム」が映っていました。
続いての基調講演、
▲基調講演その2。デンマーク レゴ本社 ロボティクス開発最高責任者のLars Nyengaardさんによる講演。題名は「レゴ社が考える教育用ロボットの将来像」。
全編英語でしたので、合間合間に通訳を交えての発表となりました。以下は発表内容のメモです(マジメに書き起こしたら、ものすごい長くなってしまいました)。
・(1932年創業のレゴ社。「遊びと学び」の77年間)今から50年ほど前にレゴ社はレゴ ブロックを世に送り出しました。「遊びと学びの融合」が世の中にとって大切だと考えたからです。
・ロボットを作るには沢山の専門的知識を持った専門家が必要になってきます。専門家を育てるためだけではなく、同様の重要性で科学・技術や数学の知識が生きていくうえで必要なのです。
・学校教育の習うことで、他に世の中に起きていること、たとえば気候の変化などを学ぶことも非常に重要です(スクリーンには「エネルギー危機」「統計の理解」という文字も)。このような考えは世界的な傾向として広がっていて、一つの例として「Partnership for 21'st Century」(http://www.21stcenturyskills.org/)という、このようなプロジェクトやムーブメントの中で人々が科学・技術・エンジニアリング・数学などについて、もっと学んでいくことの重要性がうったえられています。このようなスキルについて、学んでいくことが世の中で重要視されていることを感じています。
・産業用ロボット、軍事的な需要、家庭電化製品、玩具、医療の現場でもロボティクスが使われてきております。そして、これから先の10年はロボティクスに関して大きな発展を遂げる時期である考えています(スクリーンには「ロボティクスのスティーブ・ジョブズが2010年に現れる?」との文字が)。レゴ社としてましては、年間に10万人以上の大人や子どもたちが関わってくれるという大きなマーケットを持っておりまして、玩具・教育の分野で大きくリードできると思っています。
・レゴ社にとって、この分野でこれからもっと発展できるチャンスは限りなく広がっていると思っていますけれども、今回、日本に来ました目的の一つとして、日本の教育現場皆さんのご意見を取り入れたうえで先の方向を決めていこうと考えていますので、よろしくお願いいたします。
(「エンジニアのためにSTEMが必須」「社会生活のためにSTEMが必須」「ロボティクスは男女ともに興味関心」「STEM学習の一環としてのロボティクス」の文字)
・私のお話したいのは教育に関してです。4つの重要なポイントがあります。
・エンジニアという人が増えて、世の中を支えるうえには必要で、そのためにはSTEM(科学・テクノロジー・エンジニアリング・数学)分野の焦点を当てることが必要になってきます。
・その先どういう分野に進むかということは別にして、STEMのような分野についてどの学生も同じようにハイレベルの知識や経験を、そういった教育をしてくことが必要です。
・たとえば、オイルポンプの構造の話をした場合、男の子が興味を持ってくれるかもしれません。たとえば話の始めに子猫のことをもってきましょう。子猫の体の中に流れる血液がポンプによって送りだれていると話をします。このようなアプローチであれば女の子たちもがぜん興味を持ってくれますし、男の子も興味を持ちます。
・ロボティクスは一環(一貫)した流れをもった教育ということができます。
・(「今後の展望」)学校教育・学校外の教育の現場で、ロボティクスによって教科を越えた課題を提供でき、オープンエンドで子どもが答えに辿りつくようなアプローチができますし、社会に役立つ、そして子供たちにも興味を持ち自分たちにも役立つのを設定することができます。創造的にものを考えていける人たちは問題を解決していくことができます。一人ではなく、みんなでチームワークを組んで物事に取りかかれることができる、このような能力を伸ばしていく、非常に積極的に学んでいく環境を提供していくことです。
・(「パートナーの皆様との協力体制」)このビジョンを実現するためには、私たちだけではなくパートナーと一緒に提供していくことが必要です。一つの例ですが、タフツ大学、マサチューセッツ工科大学、カーネギーメロン大学、ナショナルインスツルメント社ともパートナーシップを組ませて頂いてます。
・(「社会の変貌」。スクリーンに「産業社会→情報社会→クリエイティブ社会」の図が)
(「From→To」)
・教育のことで学ばなくてはいけないのは右側に「To」に出ていること。自分たちで足で立って、自分たちで学び方を学んでいくこと。その他、その他、その他、いろいろなことです。
・(「政治の世界でも」。スクリーンにオバマ大統領の写真)世の中で信じてくれる人が他にもいます。
・(「フローな状態に導くレゴ社のロボティックス教材」)ロボティクスの課題を提供することで、一つの教室で違うレベルの課題を設定することも可能です。できる側の生徒たちはちょっと手の込んだ解決方法、努力が必要な子どもたちには単純な方法で課題への取り組みも可能です。教育現場で適切な教材を提供することで、アクティビティの幅を広げることができます。
・(「21世紀の指導者像」)知識や情報を提供できるプロでなければならないし、ファシリエイトしチームに対してサジェスションするコーチの役割であり、全体を導くメンターでなくてはならないのです。
・(レゴ教材における学びの体系)そのような教育現場で先生たちは子供たちが連続的に段々と能力を上げていくための教材について紹介します。レゴ マインドストームは8歳以上を対象と考えていますが、大学以上の現場でもご利用頂くことができます。レゴ エデュケーション WeDoのプロジェクトには非常に興味を持っていましたし、非常に気に入っています。
・(連続性)子供たちにとってWeDoから入り、そこからレゴ マインドストームに移り、学びの発展のしかたはムリがなく、指導者の先生方にとってもムリがありません。
(「先生!僕たちだけでやらせてください。」)
・フローの状態、一生懸命になって、自ら課題に入っていく状態であり、主体的な動機付けがされており、自ら学んでいくとき、そういうときに「僕たちだけでやらせてください」と言います。その時、子供たちは先生がファシリテーターであり、メンターであり、プロフェッショナルであることを忘れているわけではありません。自発的に物事に関わっているという状況です。どうもありがとうございました。
、、、以上が基調講演の内容のメモです。
勝手にまとめさせて頂くと「新しい社会では理科や数学などが必要。教育現場にロボットが必要」ということでしょうか。
事例発表では6人の講演者による発表がありました。
以下、講演内容のメモを箇条書きで載せさせていただきます。内容がわかりにくかったら、すみません。
▲(1)奈良教育大学附属中学校教諭の福田先生の講演。
・ロボティクスを通して創造力、問題解決力を育成。もう一つは、「人間関係力」の育成が非常に大きい。中には対人関係が苦手な子ども、不登校の子もいるが、ロボティクスを通して能力を発揮できる。ともに学ぶ教授法、ピア・サポート。
・活動支援団体の一覧。
・一つのミッションをするときにロボットをむちゃくちゃに変えて、わからなくなってしまう。理科に「対照実験」という言葉がありますが、一つ変えて誤差を無くしていく。
・もの作りを教えてるのかなと思いながら、実は人作りをしてるかなと思うことが多々あります。子どもたちにいつも言ってることは、正しい判断をすること。どのパーツをどうするという判断ではなく、たとえば「目の前にゴミが落ちていたらどうする」というような、そういうきちんとした判断をしないとロボットはできない。もう一つは、感謝することを忘れないようにしようと、いつも子供たちの前で声を張り上げて、一生懸命、諭しているところです。
▲(2)さいたま市立道祖土小学校教諭の横須賀先生による講演。
・電子でんびんが1000円ちょっとで買える。上皿てんびんやマッチを外す意見が主流になっているが、上皿てんびんは、重さを計ることに人類の歴史・技術があるので、外していいとはならない。
・実体験としてものの仕組みを学んでもらいたいと思って取り組んでいます。
・SPP(サイエンスパートナーシップ・プログラム)はロボットの学習内容を入れないと受理されません。ロボットの仕組みを3年生~6年生で系統的に学ぶとして申請。S&Tセットを9セット購入。
・製作例紹介。風やゴムで動く車(3年生)、パワーカー(4年生)、振り子時計(5年生)、レタースケール(6年生)。
・利用の注意点。分担の確認。ヒマな子ができないように。
・注意点。合本になっているので、今日作るページを開かせないと気の早い子は1ページ目から作ってしまう。
・注意点。部品の管理。
▲(3)立命館小学校・副校長の荒木先生による講演。
・小学5年生の生徒が幼稚園児に対してロボットを教えている写真紹介。
・年間30時間をロボティクス科というクロスカリキュラムに当てる(生活科・図画工作など)。
・「クリケット」「レゴ マインドストーム」「レゴ ミニセット」などの教材の導入。
・1年生では動くおもちゃを作る。2年生では2人で作る。3~4年生ではレゴ マインドストームなどを使い生徒同士が共同で課題解決。
・プログラム環境「スクウィーク」で一番最初に作ったのが太陽系の惑星モデル。HPさんの支援を受け(タブレットPC)、月2回ほど学校を会場としてワークショップを行っている。
・シンガポールのルーラン小学校と共同研究発表。
・宇宙飛行士の若田さんがISSから持ちかえった「かぼちゃの種」を育てる活動「Pumpkin Seed Mission」(若田さんを写した20秒ほどのムービーも紹介)。2年生がWeDoを使って宇宙に関わるものを作って9月に学校内で展示会、10月末には国立科学博物館にて展示予定。
・共同で取り組むことの評価(COREというロゴを作成)。ただ、どうやって評価していくかというのが悩んでいるところ。この後で情報交換を頂きたい。
・ロボティクス「+α」で、より普及がはかれる、ロボット大会、環境・宇宙・生命。多くの方を巻き込んでやらせて頂きたいと思っています。
▲(4)相模原市総合学習センター指導主事の川原田先生の講演。
・NPOを立ち上げ、地域で活動。
・もっとやりたいという気持ちを作らないと続かない。
・ロボットは魅力的な存在。「ロボット」と聞きますと一杯集まってくる。
・教科に縛られない学習ができる。「創造+表現+思考」。
・子どもの能力育成にとても効果的。
・ロボット教室を去年の10月より開催。会場は桜木町周辺。
・教室の内容は「ギヤとスピード」「ギヤとトルク」「6本足で歩く」「色を見てボボールを打ち分ける」「WROコースにチャレンジ」など。
・「モチベーションの向上」。自由があること。自分で行動する。
・「子供たちの心をひらく」。不登校の子供への実践。自分に自信が持てるという、効果があった。
▲(5)神奈川大学附属中高等学校教諭の小林先生の講演。
・2003年より「情報」という科目を新設。コンピュータの情報のあらわれ方や処理のしくみを理解させる。
・SPP(サイエンスパートナーシップ・プログラム)を活用して教材を購入。
・センサーを使ったロボットの制御、レゴ マインドストームを使っての実習。
・授業内容は6時限ぶん。2人で1台のロボットを組み立て。後半5~6時限はミニ競技会の開催。
・競技内容はロボットの車庫入れ。壁を迂回して、コの字型の車庫にロボットを停止させる。うまくいって抱き合って喜ぶ生徒も。
・興味を持たせて解決していく方向性を導くには、レゴ マインドストームは適していると思います
▲(6)日本科学未来館の科学コミュニケーター、佐藤さんの講演。
・日本科学未来館では「実験工房」にはロボットを学べる4種類のコースがあり、そのうちの3コースでレゴ マインドストームを使っている。
http://www.miraikan.jst.go.jp/event/school/
・そのうちの一つ「ロボット感覚系(味覚)」というコースでは、オリジナルのセンサをインテリジェントブロックNXTに接続して、塩水の濃さを測定する実験を行っている。センサのハードウェアは自作、ソフトにはNXTソフトウェアを使い、サウンドセンサのブロックで測定している。
講演の後、4種類のワークショップが行われました。
▲レゴ エデュケーション WeDoのワークショップの様子。講師を担当するのは
FLLなどでご活躍されているNPO法人青少年科学技術振興会・理事の石原さん。モータが回っただけでも会場から「おおー」という歓声が上がってました。
▲教育用レゴ マインドストームNXTを使った上級者向けのワークショップ。主にデータロギング機能についての説明が行われました。
講師を担当するのはデンマーク レゴ本社 ロボティクス マーケティング マネージャーの、James Isomさん。言葉が英語なので通訳を介します。
▲NXT講座の「上級」編より。ワークショップの途中、カーネギーメロン大学のロボットアカデミー(http://www.education.rec.ri.cmu.edu/)が作ったという教師用のガイドがスクリーンに写されました。データロギングの使い方を解説している内容のようです。
▲NXT講座の「上級」編より。ワークショップの途中、なんと、五十川さんの虎の巻もスクリーンに映りました。
▲NXT講座の「上級」編より。「ハードスキル」と「ソフトスキル」の解説。「チームワーク」も重視されていて、どのワークショップでもロボットを2人で1台を組み立てるというスタイルになっていました。
▲NXT講座の「初級」編で生徒さんが組み立てていたライントレースロボット。講師を担当したのは川原田先生。テキストの表紙を見たところでは、このロボットの作り方はタフツ大学の人が考えたようです。
▲全ワークショップ終了後に行われた「意見交換会」。参加者の一人からは、教材をそろえるときの数量と予算についての質問が出ていました。
あと、会場の一角にレゴ エデュケーションの製品がいくつか展示されていました。教育用なので、一般の人にとっては珍しい存在かもしれません。
▲「9641 レゴ 空気力学セット」を使った製作例。学習指導要領の「エネルギー変換」などを学びます。
http://www.legoeducation.jp/st/products/products_03.html
裏側にあって分かりにくいですが、NXT用のモータを使ってポンプを押す仕掛けになっているようです。表側の表示板は圧力計です。
▲「9686 レゴ サイエンス&テクノロジー モーター付基本セット」の製作例の一つ、「コチコチ時計(振り子時計)」。
http://www.legoeducation.jp/st/products/index.html
▲ワークショップの途中で紹介された五十川さんが製作した「三球儀」。地球と月と太陽の動きを再現したモデルです。なんと「9686 レゴ サイエンス&テクノロジー モーター付基本セット」に付属するパーツだけで作られているそうです。電源を入れるとモデルが自転・公転します。月公転1回転に対して地球の自転27回転、地球公転1回転に対して地球の自転345.6回転、、、というような動きをするのですが、これをなんとギヤ比の組み合わせだけで再現してます。すごすぎます。
以上で、カンファレンスの紹介は終了です。非常に密度の濃い企画でした。なお、閉会式のあと、懇親会が行われました。