2015年の7月18日に科学技術館で「第8回科学技術におけるロボット教育シンポジウム」が開催されました。おもに学校の先生を対象としたシンポジウムです。
今回は、東北大の大学院・工学研究科航空宇宙工学専攻の吉田和哉教授がゲストとして招かれ、「月面探査ロボットへの挑戦」と題しての基調講演がありました。吉田先生はあの「HAKUTO」に関わられている方です。密度の高い、貴重な情報がたくさん語られました。
以下、吉田先生のお話をメモしてみました。箇条書きです。
・吉田先生は東工大の生徒だった。学生時代、森正弘先生が東工大で現役だった時に授業に出たことがある。ロボコンの源流を見ていた。その後、1年間ほど研究員としてMITに居て、レゴ マインドストームの原型を見た。
・現在は東北大学の教授。極限ロボティクス国際研究センターのセンター長を務めている。「極限ロボティクス」は宇宙/災害/ライフ・イノベーション/分子という4分野をまとめたもの。東北大の成果ははやぶさ、Quince、人工衛星RISING-2(雷神2)2014、など。
・吉田先生はISU(The International Space University:国際宇宙大学)に1998年から関わっている。毎年約100名の学生が参加している。ボランティアで教えている。宇宙大学というと、科学技術が最初に思うが、法律、医学、建築学、教育も大事。芸術もやっている。宇宙からインスパイアしていく。
・宇宙大学の「SSP(Space Studies Program)」という教室の様子。レゴマインドストームを使ったロボットコンテストを開催。2002年の様子の写真ではRCXを使用。2015年はNXTを使っている。自律ロボットが障害物を避けて走る。1cmくらいのビーズを拾い集めて勝ち、というようなルールでコンペをやっている。
・吉田先生にとって、宇宙大学は重要な位置を占めている。宇宙大学の卒業生が先生の研究室にインターンシップでやってくる。10名を超える生徒が来る。最近では「HAKUTOをやらせてくれ」という希望者が多い。
・宇宙大学の創設者、現在はX PRIZE財団代表のピーター・ディアマンデス。彼がいつも語っているのが、リンドバーグの無着陸の単独飛行で、これが懸賞レースだったこと。ニューヨークのホテル王がお金を出して仕掛けた。その結果として、イノベーションが起きた。
・Ansari X Prizeというレースでは、2004年にスペースシップワンが世界初の民間の有人宇宙飛行に成功。
・次が「月」。Google Lunar XPRIZEというレース。主催はX PRIZE財団で、Googleはスポンサー。国がやるのを待ってられない。民間ベース。自分たちの運営資金で行う。月面で探査機が500メートル走る。最初にやったチームの1等が約20億円。総額は約30億円。20億円は高額に思えるが、はやぶさは100億。火星探査で500億かかる。政府機関がやってきたよりも1桁安くしないといけない。
・よく誤解されるが、X PRIZE財団が探査機を月に運んでくれるわけではない。
・2007年に財団がアナウンス。当時、34チームが名乗りを上げた。計画はなかなか進まない。資金が足りない。元気づけるため中間賞を出した。HAKUTOが5チームのうちの1チームに選ばれ受賞した。ただし「MOBILITY」のみの評価。
・現在のチームは最初、ヨーロッパのチームと合弁していたが、ヨーロッパ側は力尽きて脱落。
・一番の着陸機に探査機を乗せてもらう。協力できることは協力する。お金を出し合う、賞金を分ける。
・チームはベンチャー企業「ispace(http://ispace-inc.com/)」が運営。恵比寿にあったオフィス。海外に移転する。
・吉田先生の子供の頃の思い出。1969年。アポロの月着陸を白黒テレビでリアルタイムで見ていた。当時8歳。
・東北大で1997年から月のローバーの研究。「宇宙兄弟」の112話あたりに出てくるローバーの原型。
・NASAをマネて、6輪の探査機で受動的に動く機構も研究した。
・一見平らな砂地だが脱出できなくなる。スタックする。砂の上は滑る。どんな物理現象か。月の模擬砂を購入して研究。車輪の回し方で滑らないようにできる。
・ロボットの目。レーザースキャナーで障害物の情報を蓄積する。動画より効率的。マッピング技術。通信衛星を使って遠隔操作。
・国(JAXA)の計画にフラストレーションを感じてるのも事実。国が動かないなら突破口を開こう。
・Google Lunar XPRIZEは2007年にアナウンス。私(吉田先生)がチーム作ろうというのはハードルが高い。躊躇していた。宇宙大学の卒業生が「一緒にやろう」と声をかけてきた。2010年に「White Label Space Japan」結成。当初は欧州との合同チーム。袴田さんと知り合った。
・2011年8月に「Moonraker Engineering Model」をプレス公開。
・チーム名は「HAKUTO」に改名した。
・伊豆大島で実験。2012年ごろ? 2014年、静岡の中田砂丘で実験。カメラやセンサーの情報だけで操縦。
・人工衛星かぐやの見つけた月面の「たて穴」。写真から見て、横穴もあるのではと推測している。ワクワクする話。優勝賞金を確保することは必須。他に穴の中に入っていくことも計画している。価値が高い。横穴があれば、月面基地を作ることもできる。有力候補地。
・探査機は2台の構成。ムーンレイカーとテトリス。1台がけん引。1台が縦穴探査用の二輪のロボット。糸を繰り出して、ロボットを降ろす。
・打ち上げの衝撃に耐えられるか振動試験。振動で壊れやすい。
・探査機は完成している。「飛びましょう」と言って、飛べる自信がある。いつでも行けます。
・2016年後半に打ち上げ予定。2017年になるかもしれない。アストロロボティック社のロケット。同社の「Griffin Lander」チームと相乗り。
・計画は夢みたいな話。「できないでしょ」と思うのが第一印象。そう思われるかもしれませんが、やりがいがある。小さなロボコンからスタートして、本当の月面を目指す。子供たちに、わくわくする夢を与えたい。
、、、とのことです。すごい面白い話が聞けて良かったです。宇宙大学の授業とか、研究室での探査機作りとか、とにかく宇宙が好きで、地道な活動を積み重ねて、今に至っているというところに感激しました。
展示していた月面探査機。左がテトリスで右がムーンレイカー。中身の基板は入っていませんが、本物だそうです。